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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(行ツ)74号 判決 1977年3月03日

東京都青梅市黒沢二丁目八四九番地

上告人

柳内一雄

東京都青梅市青梅四丁目一三番四号

被上告人

青梅税務署長 森田好則

右指定代理人

川口秀憲

右当事者間の東京高等裁判所昭和四九年(行コ)第四八号課税処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五一年四月一五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由(一)、(三)ないし(五)及び付言について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するにすぎないものであつて、採用することができない。

同(二)について

所論は原審の判断の対象とならずその判断しない事項を攻撃するものであり、原判決の違法をいうものとは認められないから、論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

(昭和五一年(行ツ)第七四号 上告人 柳内一雄)

上告人の上告理由

(一) 乙第一号証の一乃至一〇の件について

私(上告人)はこの文書は青梅税務署職員村山宗太郎の偽造文書であると、一、二審を通して主張して来たが、両判決とも昭和四七年八月二二日の村山宗太郎の証言だけを根拠として、この文書を私が作成し、それを村山が筆写したものであると断定し、判決しているのである。民事訴訟法第三二五条によつても明らかな如く「私文書は其真正なることを証するを要す。」と規定されているのに、偽造犯人本人の証言だけを以て、この文書を私が作成したものの筆写であると断定しているのは不当も甚しい。これには左の通り証拠があるのである。

一、一審の昭和四八年七月二〇日の私の準備書面に詳述しておいた通り、上告人にとつて、こんな不利な文書を税務署の催促もないのに、自分から提出に行くなどということが、常識で考えられることであろうか。社会通念に違反する話である。

二、次に昭和四七年八月二二日の青梅税務署職員で、村山と調査に当つた畠山茂の証言を見て頂き度い。畠山はこの文書によつて私の所得額が約二千万円以上も増したと言つている。この金額は本事件にとつて、決定的な影響を及ぼす高額なものである。この点につき私は昭和五〇年一一月一九日の準備書面によつて詳細に陳述しておいたので見て頂き度い。又昭和五一年二月二六日の準備書面にも、この文書が偽造であることを立証してあるので、之も併せ見て頂き度い。然しなんと言つても決定的な証拠は、昭和五〇年一一月一九日の準備書面(二)の件である。一、二審の判事が此等の点をどう判断したかを是非きゝ度いものである。之等の証拠を全部無視し、偽造犯人の証言だけを採用した理由は全く陳述されていない。民事訴訟法第一九一条三に違反する。又本件は民事訴訟法第三二五条にも違反しているので上告する。

(二) 武蔵野興業不渡手形及び大和土木手形の件につき、

本件については昭和五一年二月一六月の私の上申書に書いておいた通りの事情で、昭和五一年二月一〇日付の被控訴人提出の準備書面に対して反論することができなかつた。そこで、もう一度開廷して頂き度いと申立てたのですが、之は認められなかつたので、国税通則法第七二条により、控訴判決の無効を主張するものである。同法には「国税の徴収権は、其国税の法定納期限から五年間行使しないことによつて時効により消滅する。国税の徴収権の時効については、其援用を要せず、又其利益を放棄することが出来ないものとする。」と規定してあつて、課税することが出来ない許か、もし私が之を納めれば、其利益を放棄したことによつて、国法を犯すことになるわけである。私の上申書でも申立てている通り、本件については、昭和四三年一二月四日の国税局の裁決書(甲第一七号証)並に之を承認した同年同月一三日の青梅税務署長の更正決定書(甲第四四号証)によつて所得額に於て、一、三一八万円、所得税額に於て九三六万円が減額され其れ以後一回の訂正も催促もないのであるから、明らかに時効消滅しているのである。而も本訴訟で争っているのは、これ等を除外した部分について争っているのであるから、時効中断の効力もないと私は主張するのである。控訴判決は明らかに、国税通則法第七二条に違反しているので上告するものである。

(三) ギフトセンター葵の四〇〇万円の手形の件について、

この件については、控訴審判決に於ても一審判決を其まゝ認めている。一審判決では、この四百万円の手形は、確に一度は不渡になつたが、其後他の手形、小切手で、昭和三八年九月に完済しているとしてこの手形債権の請求権の放棄は無効だとしている。そして他の手形、小切手で支払つたと言つているが、其事実は全くない。もしほんとに支払つたというなら、何処の銀行を通して何日に支払つたかを証明すべきなのに、この問に対しては全く答えられないのである。只昭和四七年一一月一八日の坪根忠義の証言により、坪根がギフトセンター葵の代表取締役であつた井手口正からきいたという話だけを証拠として判決しているのである。然し、この点については、昭和五〇年一一月一九日の私の準備書面三に於て精しく説明してある通りの事情があるので、この四百万円は絶対に決済されてはいないのである。三八年九月に決済されているものを、私が三九年に支払請求訴訟を起す筈もなし、又四〇年になつて、支払本人だという山田公寛が証人に呼ばれながら、其席上一言もこの手形は支払済だと言つていないのは、社会通念上あり得ないことである。よつて私は社会経験則違反として上告する。

(四) 銀行口座の件につき、

被控訴人は昭和五一年二月一〇日の準備書面三に於て、私が銀行口座も持たない無効手形を振出したと言つて居り、控訴判決も之を支持して、この手形は仮空の手形だと判決している。然し、甲第二二号証の付箋を見れば分る通り、同付箋には「この手形は本日呈示されましたが、預金不足につき支払致しかねます。」とあり、明らかに口座が設定されていることを証明している。もし口座の設定がなければ「取引なしにつき支払致しかねます。」とある筈である。然るに控訴判決では武蔵野興業の口座が設定されていなかつたと、断定している。証拠無視も甚しい。故に上告する。

(五) 大和土木コンサルタントの株式について、

控訴判決では、私が大和土木コンサルタントの株式を額面価格で譲受けたとしているが、私も株式の外交で数年間生活していた人間である。こんな株式が無価値のものであることは始めから分つていた。只三枝啓悦が之を持つて来て、是非預つて貰い度いと言つて、置いて行つたので、其まゝ預つていたにすぎない。絶対に譲受けた事実はない。只其後三枝は住所を晦まし、催促もして来なかつたので、返還しようがなかつたのである。だから昭和五一年二月一六日の上申書でも申立てている通り、取りに来れば何時でも、無償で返還すると言つているのである。然るに判決は、株式の譲受によつて四百万円を私が受取つたものとみなすとしている。事実無視も甚しいので上告する。 以上

尚之等の事情を明確にするため左の通り二、三付言する。

一、もう一回開廷して審理すれば、控訴判決文八枚目の問題などは、もつとはつきりした証拠によつて説明出来たのである。例えば、井手口正が武蔵野興業の代表取締役になつたことがないと言つているが、井手口は実際に、昭和三八年一二月に代表取締役に就任し、翌年三月末頃迄会社の再建に努力したのであるが、とても再建不能とみて、一切の責任をのがれるため、錯誤として、登記を抹消したのである。だから錯誤の届出日を調べれば、被控訴人のいかさまは立証出来る筈である。

二、又武蔵野興業の七、三四五、〇〇〇円は金の出所が不明だから認めないと言つているが、之等の手形は全部前からの手形の書換であるから、金の授受がないのは当然である。大和土木の五、三二〇、〇〇〇円も、書換間近の武蔵野の手形と引換に受取つたので、其時点に金の授受がなかつたのも、之亦当然である。この中、百万円一枚だけは決済されたので、この分では、武蔵野の手形を返して、大和の手形を取つた方が、得だと考えたのである。この件については、昭和五一年二月二日の私の上申書に詳述しておいた。

三、私は四〇年前から株式店の外交員として生活していたことがある位で、株式の売買は其後今日迄続けている。従つて手持の株式を売つて、他の資金に当てることは、よくある。銀行口座から金が引出してないからといつて、只それだけの理由で、其取引が虚偽であるというのは、暴論である。

四、私は現在数億の資産を持つている。これは株式の売買の利益と、手持土地の値上りによるものである。金融ではいくらか赤字になつているのである。然し私が融資した金によつて立派に立直つた人が幾人かいるので、私は満足している。そして其人達とは今も親しく交際している。私がこの訴訟金額位のことで、こんなにむきになつて争つているのは、村山宗太郎が、私に賄賂を要求して来たが、私が返事もしないで断つたのを根に持つて、文書偽造までして苛酷な課税をして来たのに腹を立てたからなのである。昭和四一年課税当時の四千五百万という金は(所得税、重加算税、延滞日歩、市民税、都民税を合計すると、そうなるのである)私の当時の全財産に等しいものであつた。私にとつて、いかに巨額の課税であつたことか。だからこそ、私は今、訴訟金額を上廻る費用を使つてまで争つているのである。

以上

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